気づかれていないことを期待したけれど、


「また泣いてんだ」


どうやら、誤魔化しきれなかったようだった。

扉が閉まる音に続いて、三澄くんの足音が近づいてくる。


「もう泣いてないよ」

「別に、無理にとめなくてもいいよ」

「……やだよ。恥ずかしいもん」


優しさなのか、からかっているのか。
落ち着いた抑揚のない声からは、三澄くんの感情は読み取れない。

ドサ、と背後で鞄を置いたような音がした。


「それに、三澄くんに描いてもらうんでしょ。ボロボロな顔じゃ、もったいないから」

「……なら、描かなくてもいい」

「え?」

「今日は、カウンセリングってことで」



なにかのお店みたいな言い回しに、わたしは思わず、ふっと吹き出してしまった。

三澄くんが向かいにやってきて、窓際にもうひとつスツールを置く。

見上げると、昼休みに見たときと同じように、ほんのりと柔らかな表情を浮かべていた。


三澄くんも冗談なんて言うんだ。なんて、ぼんやりと思った。