「……おい、みくる」


ふいに、綾人の腕が伸びてきた。

驚く間も無く肩に触れられる。

綾人はわたしを気づかうように、ぐっと距離を縮めた。


「顔色、悪くね? 大丈夫かよ」


目の前に見える、眉尻を下げた綾人の顔。
こんなときでさえ、やっぱり好きだなあ、なんて感じてしまう。

いい加減、諦めが悪いよ。


伝えることのできない気持ちなんて、持っていたって意味がないんだから。

はやく、はやく、……捨てちゃいたい。


「みくる?」


優しくわたしを呼ぶ大好きな声に、ぎゅっと胸が締めつけられて、苦しい。


こころが苦しい。
息がうまく吸えない。

呼吸の仕方を、忘れそうになる。


「……だい、じょうぶ」


返事をしたら、——その瞬間、ぐにゃりと視界が歪んだ。

なにかがはじけてしまったように、涙が溢れそうになる。