美術室に足を踏み入れると同時に、パレットに落とされていたふたつの瞳がわたしの存在に気がついて、ゆったりとこちらを向いた。


ぱちりと視線がぶつかって、思わず、動きを止める。

イーゼルと向き合って座っていたのは、わたしの予想とは、違う人物だった。


艶やかなボブヘアを、さらりと揺らして。
わたしを見つめる丸い目が、きょとん、とさらに丸くなる。


「えっと……?」


教室の中、ひとりで作業をしていた美術部員の女の子が、小さく首を傾げた。

部員じゃない生徒が、準備室から出てきたことに驚いているみたいだ。


わたしは慌てて、


「ご、ごめんなさい。……あの、他の人は……?」


視線を彷徨わせながら、尋ねた。


「あ……えと、今日はほとんどの人が、きてなくて……。うち、幽霊部員が多いんです」

「……そう、ですか……」


三澄くんの姿はない。


でも、そんなはずは……。


春野先生は、三澄くんがここで作業してるって言っていたのに。