「そのくせ、大賞を取れなくてしっかり悔しがってんのが、俺からしたら、もう可愛いくて仕方なくて。賞を貰える時点ですごいじゃん、て思うのに、……なんていうか、素直に喜んだりできない不器用なやつなんだなって感じで」

「……」

「今まで気楽に描いてた分、気持ちばっか急いちゃったんだろうな。思うような結果が出せないことが続いて、突然、なにを描いていいかわからない、って言い出したんだ」


春野先生は、ところどころに絵の具の汚れが残ったエプロンを外すと、たたんで机の上に乗せた。


——先生は、……どうしてわたしに、こんな話をするんだろう。

もうきっと、わたしには関係のないことなのに。


「続けてると、スランプって必ず訪れるものだろ。いきなり描けなくなる気持ち、……めちゃめちゃ、わかるからさ。描きたくないなら無理に描かなくてもいい、なんて言ってやりたかったけど……、教える立場としては、そうもいかなくて」


心の中で疑問に思いつつも、なぜだか途中で遮ることはできなかった。

三澄くんの知らない部分を少しでも知れる機会を逃したくない、という欲が、わたしの中で働いてしまっているのかもしれない。