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部活が終わり、ジャージから制服へと着替えて帰りの支度を済ませたわたしは、春野先生に言われた通りに、再び美術準備室へと向かった。

本日2度目の、ベージュの扉との対峙。


……三澄くんには、もうこなくていい、って言われちゃったけど……。

大丈夫。
鉢合わせることはないはず。


わたしは、三澄くんがいるであろう隣の美術室をちらりと見て、静かに息を吐き出す。

覚悟を決め、緊張気味にノックすると、「はあい」なんて間延びした声が返ってきた。


「失礼します……」

「今更そんなかしこまらなくても。入ってどーぞ」


体を小さくして扉を開けると、春野先生がおかしそうに表情を緩めた。


でも……。
三澄くんとの練習がなくなったから、わたしはもう、美術部とは無関係。

ここに気軽に入れる資格も、なくなっちゃったんだ。


そう考えて、落ちかけたわたしの気持ち。

それを引き止めるように、春野先生がずい、とこちらへ手のひらを差し出した。