しばらく勢いをなくすことのなかったボールは、校舎の壁にぶつかったところで、ようやく動きを止めた。
追いついて、拾い上げようとかがみこみ、
「おっ」
突然振ってきた声に、わたしはびくりと肩を揺らした。
パッと顔を上げると、ちょうど頭上にあった開いた窓から顔を出した春野先生と、目が合った。
まさに噂をすればなんとやら、な展開だ。
「マネージャーバージョンの上村さんだ」
……そんな、バージョン違いがあるみたいな、言い方……。
心の中でツッコミながら、わたしはこんにちは、と小さく返した。
ボールを持って立ち上がる。
珍しくエプロンを身につけた春野先生の背後を見て、思わずドキッとした。
——ここ、美術準備室……。
見慣れた室内に、つい体がこわばる。
けれど今は、春野先生以外、誰もいなかった。