「——上村さん」
呼ばれて、わたしはハッとする。
こちらを振り返った三澄くんが、いたずらっぽく、目を細めた。
「ごめん。——入れてくれる?」
「え?」
すぐに理解できずに、目をぱちくりとさせる。
三澄くんは、わたしが持っているピンクの降りたたみ傘を指差した。
「それ。俺が持つから、……一緒に、入っていい?」
途端に、湿気を含んで、ずしりと重たくなっていたわたしの心が、小さく弾けた。
そのまま、ふわふわと、不安定に揺蕩う。
「……も、もちろんっ。いいよ」
「コンビニで傘、買うから。駅前まででいいよ」
「うん。わかった」
三澄くんが、わたしの手から、ひょいと傘を取り上げる。
そのとき、お互いの温かな体温が、しっかりと触れ合った。