「本当にありがとね。……バイバイ」
「また明日」
バサッ、と音を立てて、広がる大きな透明の傘。
それは、降り注ぐたくさんの雨粒たちから、目の前の華奢な体を上手に守っている。
滴る水滴を隔てた向こう側。
だんだんと小さくなる女の子の後ろ姿を、わたしはぼんやりと眺めていた。
……三澄くんの、こと。
下の名前で呼ぶ女の子なんて、……いるんだ。
なんとなく、みんな、三澄くん、って呼んでいるイメージだったから。
少しだけ、びっくりした。
……なんだか、今のは。
三澄くんがものすごくモテる理由が、わかった気がするよ。
無意識に息を潜めていたようで、深く息を吸い込んだ。
雨の匂いが体へと入り込んでくる。
鬱々とした空気が、肺の中を侵食していくような感覚。