「——これ、よかったら使って」

「……え……」

「ただのビニール傘だし、返さなくていいから」


三澄くんは女の子に向かって、ずい、と傘を差し出した。

その姿が、わたしとはじめて会ったときの、屋上でハンカチを差し出してくれた三澄くんの姿と、重なった。


——三澄くんは、優しい。
今まで、わたしが身にしみて感じたこと。

それを今、また別の誰かに向けられた形で、実感する。


「でも、それじゃ、新くんが……」


わたしの心臓が、ひゅ、と縮こまった。


「俺には、折りたたみ傘があるから。使って」

「……いいの?」

「うん」


「ありがとう」とか細い声で、女の子が嬉しそうにお礼を告げる。

傘を手渡す際に触れ合いそうになるふたりの指先が、わたしの目に、スローモーションのように映った。