「……傘、ないの?」
ボタンをぱちんっと外して、傘を開く準備が整ったとき。
少し先のほうから、三澄くんの声が聞こえた。
「うん。忘れちゃって……、駅まで走ればなんとかなるかなって、気合い入れてたところ」
「……や、流石にこの中は、風邪引くよ」
顔を上げると、扉の向こうの屋根の下で、女の子がひとり立ち尽くしていて。
三澄くんが、気遣うように声をかけていた。
肩のあたりで切りそろえられた髪をさらりと揺らし、困った笑顔を浮かべる彼女とは、どうやら友達みたいだ。
……クラスの子かな……。
三澄くんがちゃんと女の子と話してることろ、はじめて見た。
そう思って、すぐに、わたしは美術準備室での三澄くんしか知らないのだ、と思い直した。
クラスは離れているし、お互いに放課後以外、校内では話すこともない。