先生の前に同じようにしゃがみました。

先生の影は先生の後ろに。
私の影は私の後ろに。

二人の前に影が出来ていれば、影くらいは重ねることが出来たのに。

お願い。先生。
もうハヅキくんを見つけてよ。
それからね、奥さんをよく見て。

ハヅキくんのこと、きっと愛してなんかない。
あの女は先生の前で「良いママ」を演じてるだけの女優だ。

なんでハヅキくんは拐われたの?
目の届かない場所でなんで一人で居たの?

なんでおかしいって思わないの。
ハヅキくんが拐われたのは奥さんのせいなのに。

「先生、コレ。」

私はポケットから取り出した物を手の平で包んで先生の目の前に突き出しました。

「何?」

ジッと見ている先生に、もう一度グッと手を突き出したら先生は自分の手の平を開きました。

先生の手に、握っていた物を乗せました。

「これ…。」

ハヅキくんが大好きなヒーローの缶バッジです。
ガチャガチャの景品です。
一人で出掛けたショッピングモールに巨大なガチャガチャコーナーがあって、そこで見つけました。

先生は缶バッジを裏返しにして、銀色の部分に書いてある文字をそっと撫でました。
ハヅキくんの名前です。