「ハヅキくん、早く見つかるといいですね。」

「え?」

咄嗟に出た返事なのか、本気で思ってるのか、「え?」なんておかしいですよね。

自分の人生に巻き起こってる一番重大な事件だと思うんですけど。
ていうか、今この人に振れる話題なんてそれしか無いって言ってもいいくらいなのに。

私に見られた奥さんは、私からゆっくり視線を外しました。
私は三秒くらい見続けてたんですけど、奥さんはこっちを見る気配も無かったし、キッチンのほうへ行っちゃったんで、もう一度写真を見ました。

優しい夫に可愛い息子。
夢の庭付き一戸建て。綺麗に整えられた空間。
誰もが欲しがる物を手に入れたのに、突然息子を奪われる。

日本が注目する事件に発展して、裏では根も葉もない噂で叩かれて、幸せな家庭から一転した悲劇の女。

でもこの物語のヒロインはこの女じゃない。

私だ。

舞台の中心で一番輝かしいスポットライトを浴びるのは私。

だってこの女もハヅキくんもリズちゃんも、私と先生の物語を彩る為に、私が引っ張り出してあげた脇役でしかないんだから。

そんなことを考えながら、シェルフの上のフレームにそっと人差し指を這わせて、そのまま前にスライドさせました。

フローリングに着地してバンッて大きな音が鳴りましたけど、アクリル板に挟み込んでピンで留めるタイプだったので割れませんでした。
アクリルって強いんですね。

残念です。
私の頭の中では割れてたのに。
パーツがガラスだったら割れてたのに。
写真は無傷のままで、でもパーツが割れてるから写真だって粉々になって見えるんでしょうね。

何をされても壊れないって言われてるみたいでムカつきました。