そして店長はピアッサーを手に取り、左手でそっと、わたしの左耳に触れる。温かくて心地の良い体温を味わうように、わたしはそっと目を閉じた。
「じゃあ崎田さん、いくよ」
「はい、どうぞ」
宛がったピアッサーの位置がずれてしまわないよう、顔を動かさずに返事をすると、店長は「いち、にーの」と、ひどく優しい掛け声をくれる。
「さん」の声とほぼ同時に、バチンというバネが弾けるような音が、静かなスタッフルームに響く。すぐにじんじんと左耳が痛み出し、店長の体温が離れて行ったので、軟骨に穴が開いたのだと分かった。
目を開けてそっと左耳を触ってみると、さっきまでなかった小さな粒が確かにあった。元々ピアッサーにセットしてあった、オレンジ色のストーンが付いた小さなピアスだ。耳の裏側に指をやると、ピアスキャッチに触れる。
ああ、開いた。無事に開いた。開けてもらった。店長に。わたしの好きな人に。
「ありがとうございます、お疲れ様でした」
隣の店長に身体を向けて頭を下げると、店長は困ったように眉を下げた。
「大丈夫? 痛くない?」
「痛いですけど、大丈夫ですよ」
「位置はどう? もう変えられないけど……」
「大丈夫です。耳たぶのピアスも、開けてくれたみんなのさじ加減でしたし」
「訴えないでね?」
「だから、訴えませんってば」
不安が尽きない店長に笑いかけ、少しでも安心してもらおうとティッシュを耳に押し付けながら、消毒液をぶっかけた。傷ができたせいで耳が熱を持っているため、ひんやりして気持ち良い。