この恋は、わたしが初めて経験する本気の恋だ、と。すでに気付いていた。一生で一度、あるかどうかの、本気の恋だ。
でもこの恋心は、決して知られてはいけない。成就もしない。それもすでに気付いている。
わたしにできることは、この恋心を隠し通し、徐々になかったことにするだけ。でも本気の恋は、なかなか思い通りになってはくれない。
わたしは器用なほうだと思っていた。ある程度のことなら割と何でもそれなりにこなせるし、これまでに何度かあった片想いや失恋や別れも、上手く乗り越えることができた。
読書や手芸や映画鑑賞や、とにかく色々なことに時間を使えばすぐに心は晴れたし、それでも時折もやもやするときは、ピアスホールを開けた。おかげで左の耳たぶに三つ、右に二つのピアスがあり、こういうものに寛容ではない親戚たちからは「高校生までは優等生だったのに不良になった」と白い目で見られているわけだが。心は驚くほどに晴れた。まるで開いた穴から、わたしの中に渦巻いていたどす黒い感情が、抜けていったみたいに。
だからきっと、今回も乗り越えられる。なんたって軟骨のピアスだ。骨だ。骨にまで侵食しているであろう本気の恋の様々な感情は、開いた穴からすうっと外へ流れ出ていくだろう。大丈夫、きっとこの恋は忘れられる。