ダイニングバーCLOAK(クローク)にようやく行ってみる気になったのは、あの春の嵐から二ヶ月近く経った五月の終わり。

社交辞令を真に受けるほど鈍くはないし、どうしてもあのひとに会ってお礼を、・・・なんて考えてもいない。黙ってお客としてお店に行くなら、べつに迷惑にはならないはず。

向こうだって私を憶えてないだろうから、食事代がお礼代わり。言い訳を巡らせて高校時代からの友達、葛西(かさい)來未(くみ)を誘った。・・・もとい彼女に連れてきてもらった。

会社の人に勧められたことにして、経緯(いきさつ)は伏せたまま。話せば余計なお節介を焼かれるのは間違いない。良い意味でも悪い意味でも、來未は物怖じしないから。

ネットで検索したら普通にイタリアンダイニングで。素早い彼女が、グルメサイトで半個室の席を予約してくれていた。