「ピザーマン、好きなのか?」


 彼の口からそんな名前が出るのが不釣り合いで、私はちょっぴり噴き出しそうになった。

 ピザーマンというのは、私たちが子供の頃から放送されている国民的アニメ、『いざゆけチュウカマン』に登場するキャラクター。顔が中華まんになったキャラが複数出てくるなんともシュールなアニメだが、子供に大人気だ。

 そりゃあ青山さんも知っているか、と納得する私。しかし肝心の男の子は袖で涙を拭っているだけで反応がないので、青山さんはさらに眉根を寄せて彼の顔をずいっと覗き込む。


「好きなんだな?」
「うっ……うん」


 彼の迫力に驚いた男の子はビクッと肩を跳ねさせ、ぎこちなく頷いた。その様子を静観する私は、怖がらせてますよ!と内心ハラハラする。

 青山さんはようやく反応が返ってきて満足したらしく、表情も口調も緩める。


「そうか、強いしな。おじさんは定番のニックマンが好きだった」
「……ニックマンもすき」


 少しずつ泣くのが収まってきた男の子が言葉を返してくれた。私もほっとしていると、青山さんは小さな頭をぽんぽんと撫でる。


「君も強いだろ。ほら、もう泣き止んだ」


 そう言う彼の顔に、ふわっと笑みが浮かんだ。

 初めて見たその笑顔はとても眩しく見え、私は心臓がぎゅっと掴まれたような感覚を覚えた。