トレーに乗せて彼のもとへ運び、笑顔でソーサーを置く。
「お待たせいたしました。ブルーマウンテンです」
「ありがとう」
一度こちらを見上げてお礼を口にした彼は、再びタブレットに目線を落とす。
ほら、クールだけど、こうやってちゃんと〝ありがとう〟や〝ごちそうさま〟っていう挨拶はしてくれるの。人として大切なことを当たり前にできる人は素敵だと思う。
まあ、今タブレットと睨めっこしている顔はかなり険しいけど……。
いつものごとく眉間にシワを寄せている青山さんは、ひとつため息を吐き出し、そのままの表情でふと目線を上げる。ついじっと見つめてしまっていた私を不思議に思ったらしい。
「なにか?」
「あっ、いえ! ごゆっくりどうぞ」
やっぱり目つき怖っ!という本音をひた隠しにして笑顔を向け、その場を立ち去ろうと歩き出した時。
「こら、走っちゃダメ!」
女性の声がした方を見やると、奥のソファー席で女子会をしていた子連れのママさんのひとりが、こちらに向かって走ってくる男の子に注意している。皆帰り支度をしている最中のようだ。