ちなみに、青山さんというのは仮名である。タブレットで仕事をしながら毎回ブルーマウンテンを飲んでいるので、そこから取って密かにあだ名をつけたわけだ。

 ヱモリで一番値段の高いこのコーヒーを頼むくらいだし、ブランドもののスーツを着こなしているし、きっといい身分なのだろう。振る舞いや仕草も洗練されていて、高嶺の花という雰囲気をひしひしと感じる。

 彼がやってくると、いつからかマスターが『色男が来たよー』と里実さんを呼ぶようになっていた。最近の彼女の〝観察対象〟だと知っているから。

 じっくり眺めて満足げにしている里実さんに、私はカウンター越しにこそっと言う。


「今日こそ話しかけてみたらどうですか?」

「無理無理無理。イケメンはこうやって陰から見てるだけでいいのよ! というか彼すごく冷徹そうだし、私みたいなのがいきなり話しかけたら汚物を見るような目で滅されるに違いないわ」

「すごい偏見」


 勝手に決めつけて自虐するものだから、私は半笑いで返した。

 確かに青山さんは美麗な人なのだが、笑顔をほとんど見たことがないどころか眉間にシワを寄せて仕事をしているので、どことなく近寄りがたい空気を放っている。