なにげない調子でとても嬉しい言葉をかけられ、頬がじわじわと熱くなった。

 ──ダメだ、こんなふうに優しくされたら完全に落ちてしまう。一見冷たそうなのに、その唇が紡ぐ言葉はとても温かいから、ヒートショックが起きたみたいに心臓がドキドキする。

 私は謙遜しながらはにかんで、「いつでもいらしてくださいね」と返すのが精一杯だった。



 ここ数年間、恋愛とは縁がなかった私が、二十四歳にしてまるで初恋のように名前も知らない彼に胸を焦がし始めた。

 しかし、ことごとくタイミングは合わないようで、バレンタインの数日後に父からお見合い話を持ちかけられてしまった。実は私、これでも社長令嬢なのである。

 父は主に雑貨や菓子などの卸販売を行う総合商社『明河商事』のトップで、姉の旦那様が次期社長になる予定だ。恋愛結婚ではあったけれど、彼が跡を継いでくれるというので、本当にいい人を見つけたと思っている。

 私のお相手は、明河商事が新たに取引を行おうとしているIT企業の社長の息子だそう。彼のご家族が、恋愛結婚より互いの家のことをよくわかった上で相手を選びたいと考えているそうで、私に白羽の矢が立った感じだ。