……この人のどこが怖いっていうんだろう。こんなに優しく接する人なのに。

 母親が急いでやってきて、私たちに謝りお礼を言う。男の子はなんとか立ち直り、こちらに手を振って帰っていった。

 ママさんたちが店を出ていき、青山さんは何事もなかったかのごとく再び席につく。すっかり普段のクールさに戻っているけれど、今の貴重な姿を幻のように思いたくなくて、私は咄嗟に口を開いた。


「私、こしあんマンが好きでした」


 どうでもいいひと言を唐突に呟くと、青山さんがキョトンとして私を見上げる。瞬きをしたあと、数秒の間を置いて彼も口を開く。


「……こしあんマンとつぶあんマンだけ、ネーミングがなんの捻りもないのが逆にいい」
「ですね」


 なんて色気のない会話。初めてまともにした話がこんなくだらない内容になるとは。

 一度真顔で見つめ合ったあと彼は小さく噴き出し、ははっと無防備な笑いをこぼした。そして、冷たさなど微塵も感じない瞳と視線が絡み合う。


「可愛かったな、今の子」


 私だけに向けられた、柔らかな笑顔の破壊力はすさまじく、胸に矢が刺さったんじゃないかと本気で思った。

 この瞬間だったのかもしれない。私が彼に恋をしたのは。