雨の降っていた、ある冬の日。
路地裏、雨に濡れた男の子。



『──触んなよ、うぜぇな』
『だから?おまえには関係ないだろ』

『……どうでもいいだろ。俺のことなんか』



脚の傷跡が、ちり、と痛んだ気がした。

大きくて寂しそうな背中、首のほくろ、何も映していないかのような冷たい瞳。



「……思い出した……」



どうして今まで忘れてたんだろう……。
あの時の男の子は、朔だった。

私のことを助けてくれたのは、朔だった。



……やばい、なんか泣きそう。
泣いてる暇なんかないのに。朔のところに行かないと……。


前にも来たことのある朔のマンション。
そのエントランスを抜ける。
エレベーターに乗って、朔の部屋の前へ。

乱れた呼吸を整えることもせずに、私はインターホンを押した。