少しだけ頭を下げてから、小川くんは駅の改札に向かって歩いていった。
その後ろ姿を目で見送る。
小川くんの姿がまったく見えなくなってから、夏帆があたしの肩を叩いて言った。
「今日も朝からお疲れ、乃愛」
あたしの親友の野々宮夏帆は、ショートカットが似合う、切れ長の大きな目がすごくキレイな美人さん。
性格はけっこうサバサバしていて、物怖じしないところがカッコよくて、あたしよりも明らかに大人っぽくてお姉ちゃんみたいな感じ。
モデルをすればいいのにって思うくらいスタイルが抜群の長身を見上げると、夏帆は軽くため息をついた。
「はー、それにしても、乃愛ってほんとよくモテるよね。毎日入れ替わり立ち替わり、様々な年齢の男子が告ってくるし。この調子だと、いつか世界中の男が全員乃愛に告るんじゃないかと、わりと本気で思えてくるよ」
「まさか~。そんなの絶対ありえないよ。なに言ってるの~?」
夏帆の冗談のスケールが大きすぎて、くすくす笑う。
「乃愛さ、もういっそのこと……藤城と付き合っちゃえば?」
「……え? 王河とっ!? ななな……なんでっ」
友達の中でも親友と呼べるほどの仲良しの夏帆にも、王河のことを好きだってことは言っていない。
だってただの普通の女子高生のあたしが、今をときめくモデルで俳優の王河のことを好きだなんてことを知られたら、恥ずかしすぎてたまらないから。
それなのに、なんで夏帆はこんなことを言ってくるんだろう?