もったいをつけるつもりなんかなかったけど、あの時――乃愛に好きって告白をされたとき、“俺も好きだよ”ってはっきりと言葉を口にできなかったせいで、こんなにも乃愛を苦しめた。

 ごめん、乃愛。

 知らなかったよ。

 俺、こんなにも、乃愛に愛されていたなんて。

「ほんと、ごめん」

 謝罪の言葉を口にして、俺は乃愛を抱きよせた。

 泣き止ませようと、背中を数回、優しくポンポンと叩く。

 それからあることを思いついて、俺は乃愛の耳に囁いた。

「そうだ乃愛、予定を変更して、今日の花火はあそこで見ようか?」

「え? あそこってどこ?」

 ゆっくりと乃愛を離し、目に涙を浮かべている乃愛の頬をすーっと伝う涙をそっとふいた。

「俺、乃愛に伝えたいことがあるんだ。俺と乃愛のヒミツの場所で」

 そう言って俺は、乃愛の手をとり、ゆっくりと歩き出した。