「そう、夏帆。だったら、絶対に間違えない。だって、いつも乃愛が“夏帆って言ってるから」
もちろん、乃愛が1番なのはわかってる。
あたしは乃愛の親友だってことも自覚してる。
でも、やっぱり……好きな人に“夏帆”って言われた衝撃は大きくて、あたしは緩んでしまいそうな頬を見られたくなくて、横を向いた。
うれしさがじんわりと胸に広がり、次に切なさもこみあげてきて、あたしは唇をかみしめながら下を向いた。
そうでもしないと、にっこり笑ってしまいそうだから。
そのくせ、涙をポタポタ落としてしまいそうだから。
「なぁ、そんなに考えることじゃなくね? 名字を間違われるより全然いいだろ。じゃあ、夏帆で決まりってことで』
藤城の言葉に、
「って、なにを勝手に……、あたしはまだいいとは……」
と反論しようとしたのは、このうれしさと切なさを毎回感じるのは無理だって思ったから。