それでも、

「は? 野々山って誰のこと?」

 ってわざと不機嫌そうに、いつも通り言ったけど、かすかに声が震えるのを止められなかった。

 2人に気づかれていないかな。

 いたたまれないから、早くこの場を離れたい。

 そう思ったのに、

「じゃあさ、間違えないために、これからは“夏帆”って呼ばせてくれない?」

 なんてことを、藤城王河は言い放った。

「えっ!? 夏帆っ!?」

 そう言ったあと、思考回路は停止しかける。

 好きだった人に名前を呼ばれるのって、こんなに心に響くことなんだ。

 好きだった? 違うよね。諦めなきゃいけないのはわかってるけど、今でも藤城を好きな気持ちは消えてない。