みどりと離婚して一年が過ぎた頃、
 「麻美のご両親に挨拶したいな。」と俺は麻美に言った。麻美は北陸の出身で、大学生の時から一人暮らしをしていた。最近はほとんど俺の部屋で過ごす麻美。
 「本当?」麻美は驚いた顔で、大きな目を潤ませる。
 「俺がバツイチでも許してもらえるかな。」俺の一番の不安。麻美は大きく頷いて、
 「もちろん。反対されても譲らないし。」と言って俺に抱き付いた。
 「結婚してくれる?」麻美を抱きしめて言う。麻美は俺の胸に顔を付けて
 「ありがとう。」と答えた。
 「俺の前の家族のこと、気にならない?」麻美の不安はできる限り取り除いてあげたい。
 「気になるよ。でも過去も全部含めてタカだから。」麻美の答えに俺は驚く。
 「ありがとう。」と言うと、
 「それに私だって、タカと知り合う前、何もなかった訳じゃないし。」と麻美は言った。確かに20代半ばで知り合えば、何もない人は少ないだろう。でもそれと離婚歴があることは違う。俺は麻美の思いやりに感謝した。
 「俺、麻美となら何でも話し合える家庭が作れると思う。俺も何でも話すから、麻美も聞きたいことは何でも聞いてね。」俺は麻美を抱き寄せて言う。
 「うん。じゃあ私のどこが好き?」麻美は上目使いに俺を見た。
 「そんな事、言えないよ。」照れて口ごもる俺に
 「えー。何でも聞いてって言ったくせに。」と麻美は頬を膨らます。
 「だから、そういう事じゃなくて。じゃあ麻美は俺のどこが好きなの?」困って逆に聞き返すと
 「私?全部だよ。」簡単に答える麻美。
 「なら俺だって全部だよ。」俺も真似て言った。久しぶりの甘い会話。去年、みどりと別れた時は、こんな日が来るとは思えなかった。ただ喪失感と不安でいっぱいだった。
 みどりとの結婚を決意したのは、みどりの妊娠がきっかけだった、俺の中に、いま麻美に感じているような、確かな思いはなかった。それでも何もなければ、平凡な日々は続いていただろう。
 今の俺は、もっと明確に麻美を求めている。だから大丈夫。必ず幸せな家庭を作れると思っていた。麻美と一緒なら。