だけど、いざ水の中で見様見真似で泳いでみると、想像以上に外の音が聞こえなくなることに戸惑った。

それに水の中では息ができず、水も冷たく、身体も重くて、私は身動きが取れないことに気付くと、馬鹿みたいにもがいていた。

そこから母には水泳の時間は見学するようにと言われ、それからは水の中を泳いだことは無い。

あの時は水が怖いというよりも、母の存在が怖かった。


「奇遇だな、俺も泳げねぇんだわ」


一喜さんは唯一怖いものが水だと笑って言った。

だけど大の男が水の中が怖いなんて言うと笑われるしかっこ悪いから、暑いところが苦手なのだと嘘をついて、いつも離れたところで眺めているのだとカミングアウトをした。

水の中は嫌いだけど、人が騒いでいるのを見るのは好きだから毎年来ていると話す一喜さんに、一喜さんらしいなと思った。

私と一喜さんは暫く無言で海を眺めていると、一喜さんの携帯が鳴り席を外す。

私は楽しそうにはしゃいでいる奈都と菜穂を見ながら、自然と顔が緩む。