ギュッと手指に力を込めたら、指先が血の気を失ったように白くなる。

 そんなざわついた心を落ち着かせるみたいに、絶妙のタイミングでサァーッと吹き抜けた風が、すぐそばの街路樹を撫でてサワサワと心地よい葉擦れの音がして。
 その木が落とす木漏れ日が葉の動きに合わせて揺れるのでさえ、美千花(みちか)の心を(なだ)めてくれている様に思えた。

 白い(まだら)模様入りのツルリとした木肌を見て、
(ヤマボウシ?)
 と思う。

 そう意識して風に揺れる枝葉を見上げれば、緑色の葉の間に白く大きな花弁の様なもの――総苞 (そうほう)が付いているのが見える。
 ヤマボウシはハナミズキ同様、葉が白く変色して花みたく見えるミズキ科の落葉高木だ。
 秋に実る赤い実はそのまま食べても甘くて美味しいらしいけれど、以前たまたま行きつけのお店で見つけて買ったジャムが気に入った美千花は、その木の特徴をネットで調べて知っていた。

(そうだ。ジャムなら食べられるかな)

 甘酸っぱいジャムをひと(さじ)舐めるぐらいなら、何とかいけそうな気がして。

 美千花は、ここ最近つわりの時に食べられていたフルーツですら飲み込むのがしんどくて、ついついアイスや炭酸水など、水分だけで済ませる様になってしまっていたから。
 それを思っての事だった。