***

 一人きりの健診の帰り道。

 美千花(みちか)は動悸と息切れを伴った目眩(めまい)に襲われて、思わず道端に立ち尽くした。

 とりあえず倒れては大変と近くにあった街路樹そばのベンチに腰掛けて、息苦しさや酩酊感が去るのを待つ。

(ちゃんと食べられてないから?)

 病院で体重を測ったら、前回の健診時より三キロちょっと減ってしまっていた。
 元々細身だった美千花は、メイクで誤魔化していないとやつれて見えるようになって。
 看護師さんから「つわりで食べられなかったからかな」と優しく言われて(うなず)いたけれど、最近の食欲不振はそれが原因ではない事を、美千花は嫌と言う程自覚している。

律顕(りつあき)……)

 夫の顔を思い浮かべると、涙で視界がゆらりと霞んだ。

 美千花が外で食べて来て欲しいと暗に示唆(しさ)して以来、彼とちゃんと食卓を囲んだ事はなかったなと思って。
 律顕も、美千花を気遣ってか家では何も口にしなくなっていた。

 顔を合わせれば、相変わらず美千花の身体を何よりも心配してくれる律顕だったけれど、距離を置かれているのはどうしても否めない。

 未だ、西園(にしぞの)稀更(きさら)と一緒に居た理由を聞けていない事が、心の底に(おり)の様にわだかまっていて凄く辛い。
 なのに、最近は何という事のない会話ですらマトモに出来ていない有様だ。
 肝心な時についもう一歩を踏み出せなくなる自分の弱さを、心の底から恨めしく思った美千花だ。