「あの、これ……」

「ああ、失礼」



拾って恐る恐る差し出すと、彼は無表情で受け取って、その後腰を曲げて私の目をじっと覗き込んできた。



「ありがとうございます、相川実莉さん」

「えっ、名前……」



不意打ちでフルネームで呼ばれ、私は分かりやすく目を丸くして動揺してしまった。



「あなたの存在も非常に興味深いですが、こうも周りに睨まれては質疑応答はできませんね。またの機会にしましょう」



さらに私を興味深いだって?


まずい、それは非常にまずい。最悪の場合命の危機に直結する大問題だ。


だけど佐々木の目には鋭さの中に、ほんの少し憐れみのような優しさがあって、私は賭けてみようと思った。



「いいですよ、それが壱華のためになるなら」

「……」



笑ってみせると、佐々木は黙って私を数秒間見つめた後腰を上げて「それでは」と志勇に頭を下げて事務所を出ていった。

大丈夫、佐々木は警察官だけど“覇王”が送り込んだスパイでもある。


きっと私たちの味方になってくれるはずだ。


そう信じて、彼の広い背中を見つめていた。