「あ、そうだ、藤宮くん」

 保健室を出て、自分のクラスの応援席に戻ろうとしていた道すがら。思い出したことがあって声を掛ける。


「何?」


 私の数歩前を歩いていた藤宮くんは、いつも通りけだるそうに私を振り返る。


「さっきの、借り物競争のことなんだけど。あれって、借り物の指示になんて書いてあったのかな?って。たいしたことじゃない、ってさっきは言われちゃったけど」

 またはぐらかされて答えてはくれないかな、とは思いつつも、やっぱり気になっていたのでもう一度聞いてみた。これで答えてもらえなかったら、きっと本当にたいした内容ではなかったのだろう。クラスメイト、とか、隣の席の子、とか。ドジな子とかだったら、少しショックかもしれないな…。


 藤宮くんは、「ああ…」と言って、ジャージのポケットから、丸まった紙を取り出した。それは先程借り物競争が終わった時に丸められた、借り物の指示が書かれた紙だ。

 彼はそこに書かれた言葉を見て、少しその言葉を眺めてから、私の方へと見せてくれた。


「ほら」

「あ、ありがと」


 私はその紙に書かれた言葉を見ようと、一歩前へ踏み出した。


 その紙には、



『気になる女の子』



 と言う文字が並んでいた。