「ふー!疲れた疲れた!」

 五百ミリペットボトルの水を一気に飲み干しながら、椿が応援席に戻ってきた。


「椿、お疲れ様!」

 私は持っていたタオルを彼に手渡した。


「おーさすがサッカー部マネージャー!気が利く!サンキュー」

 椿は嬉しそうにタオルを受け取ると、私の隣の席に腰を下ろした。


「椿、いくつの種目に出るつもりなの?」

「えーっと、…いくつだろ?」


 出場種目を指折り数えていたが、途中で分からなくなったのか、数えるのをやめたようだ。

 体育祭の種目は最低一つ参加すれば、一人何個でも参加可能だ。椿のように運動部だったり、運動が得意な子はいくつも競技を掛け持ちしているし、私や藤宮くんのように、最低一種目の生徒もいる。

 現役陸上部、すごいな…と思っていると、次のプログラムへの案内放送が入った。


『障害物競争に参加する生徒は、東入場門へお集まりください。繰り返します、障害物競争に…』


「あ!次私が出る競技だ!」

 白のはちまきをきつく結び直しながら、私は席を立つ。


「美音!頑張って!」

「うん!頑張る!」


 私は障害物競争が唯一参加する競技なので、ここに全力投球だ。

 小走りで入場門へと向かいつつ、再度気合を入れる。


 椿も藤宮くんも頑張っているし、私もいい結果を出したい!頑張るぞー!


 私は少しだけ緊張した身体を解すように肩を回し、大きく深呼吸をした。