別れたあの日からもう二度と会えないと思っていた皆川くんが、いま私と同じ学校に通っていた。
しかも、気付かぬ間に何度も会話を重ねていたなんて。



皆川くんは小学生だった当時から声変わりしていたから、声だけですぐに判断出来なかった。

よく考えたら、喋り方はあの当時から全く変わっていないのに…。



「皆川くん、久しぶりだね。あれから夢を叶えて歌手になってたんだね。おめでとう」

「紗南は俺があげた星型の飴の事を、今でも大事な思い出にしてくれていたんだな。ビックリするくらい歌が上手くなったから、今日までいっぱい飴を食べたんだよな」


「うん。歌手の夢は諦めても歌う事は辞めなかった。セイくんがあの曲を知ってるって言った時点ですぐに気付けば良かった」



保健室でいつも当たり前のようにカーテンの向こう側に居たのは、六年前のあの大雪の日に再会を約束していた彼。


閉ざされたカーテンでいつも顔が見えないし声変わりしていたから、すぐには皆川くんだって気付かなかったけど…。


透き通った歌声は今も昔も変わらず健在している。



不思議だね。
自分でも気付かぬうちに同じ人を好きになっていた。

ひょっとしたら、これは運命なのかもしれない。



昔好きだった、声楽教室に通っていた皆川くんと。
保健室のベッドのカーテンの向こう側にいるセイくん。


偶然が重なり、私達はそれぞれの道に向けて歩き出してる最中だった。



「あれから将来を目指す道は変わってしまったけど、あの時勇気をくれたのは皆川くんだから」

「幼い頃の俺はいつも紗南の笑顔が見たくて、常に飴を持ち歩いていたんだ。でも、最近は保健室で飴をもらったり、紗南の上手な歌声を聴いてる時間が何よりも幸せだったよ」



星型の飴が口いっぱいに浸透していくように、ジワジワと繋がっていく気持ちに思わず涙。
小学生だった当時、身長が二センチしか変わらなかった彼はいま私を影で被せるくらいまで立派に成長している。



「セイくん、再会する事ができたから私の夢を叶えてくれる?」

「いいよ、じゃあ一緒に歌おう。二人の思い出の曲の《For you》を…」



久しぶりに重なった二人のハーモニーは、保健室の窓から風に乗って外へと流れ出した。




カーテン越しの君は、長年抱いていた夢を掴み取り、再会を誓ったあの時以上の輝きを放っていた。



部屋の片隅で閉ざされた空間が開いた、その時。


再会を果たした私達は、二度目の恋が始まりを迎えていた。