「もう、意地悪っ。私に気付いてたなら、すぐ自分が皆川くん張本人だって、カミングアウトしてくれれば良かったのに」
「俺は紗南が大事にしてくれていた約束を守りたかった。仕事の予定を前に切り詰めたりセーブして、約束通りに出会う為に大雪の日を待つ事にしたんだ。いま思えば、大雪が降るかどうかもわからなかったのにな」
「だから、暫く会えなかったんだ。会えない理由がいまようやくわかった」
「紗南がいつ俺に気付くんだろうって、何度か意地悪をしちゃったけどな」
「あーっ。そう言えば、彼のどんなところが好きかって聞かれた事があった!」
「あはは、バレた?」
「もうっ!ヒドイよ、セイくん」
大好きな彼の声と会話のキャッチボールを繰り返していたら、涙が乾いていくうちに自然と笑顔が生まれた。
だから、不思議と気持ちが前向きになり、ポケットから出した星型の飴を口に含み、最初で最後の勇気を出した。
「セイくん…。ううん、皆川くん。今すぐに会いたいから、そっち側のカーテン開けてもいい?」
「…もう、いいよ」
数ヶ月間。
ずっと部屋の奥で閉ざされたカーテンが開いた先には。
私と同じく涙を流した形跡のある彼が、ベッドに腰をかけて私の方を向き、軽く開いた膝の上に手を置いていた。
二重まぶたの目の下には、泣きぼくろが二つ。
久しぶりに目にするその懐かしい印は、間違いなく皆川くん。
私がずっとずっと会いたがっていた皆川くんがいまそこにいる。
大雪の日に再会する為に、事前に準備していてくれていたなんて。
感無量のまま足元に視線を落とすと、★マークの書かれた上履きを履いている。
六年ぶりに再会した彼はあの時よりもずっとカッコよくなっていて。
普段テレビを観ない私までもが、何処か街中のポスターで「皆川くんに似てるなぁ」なんて思って見ていた記憶を巡らせた。
彼はあれから自分の夢を実現させ、KGKというグループ名で活動し、人気歌手として大いなる成功を収めていた。