「皆川くんはもうとっくに私との約束なんて忘れてるよ。きっと、私とは別の新しい人生を歩んでいるはず」



気持ちの温度差に胸が締め付けられた紗南は、肩を震わせながら可愛げもなくボソリと返事を跳ね返した。



「いいや、奴はあんたとの約束を忘れてないかもよ」

「…え?」



悲観的に返事をした紗南とは対照的に、セイはまだ過去の話を繋ぐ。



今は皆川くんよりも、隣にいるセイくんの事で頭が一杯なのに。

皆川くんとの再会に期待を持たす彼の一言は、まるで目の前に閉ざされたカーテンのよう。
私との間に一線を引いている。




すると、突然。



「ゴホッゴホッ。あの…さ、喉の調子が悪いから、いつもの飴ちょうだい」

「…え、喉の調子が悪いの?大丈夫?ちょっと待ってね」



セイは会話の途中で咳き込んだ。

紗南はブレザーのポケットから出した飴をいつものようにカーテンの下から手を目一杯伸ばして差し出した。



「はい、飴どうぞ」

「ん、サンキュー」



だが、セイがカーテンの下から伸びた手が包み込んだのは、紗南が差し出した飴ではなく、飴を握りしめていた紗南の手。


紗南の手の平は、飴を受け取るはずだったセイの手の温もりに包まれた。





離れたベッドのそれぞれのカーテンの下から伸びた手と手。


それは、まるで橋渡しのように宙でしっかりと繋がれていた。