今日もセイくんは保健室に来ていない。
ベッドの隅々まで見渡せるくらい全開になっているカーテンと。
窓際のベッドに丁寧に敷かれている布団と。
物静かな場の雰囲気。
最近、全然セイくんに会えていない。
セイくんに会える頼みの綱は、この保健室でしかないのに。
だから、ベッドのカーテンが開かれていると、この場所にいる無意味さを感じ、授業をサボる理由に頭を悩ます。
本当はこんな自分じゃダメだって、頭ではわかってるけど、自分でも驚くくらい恋する衝動が治らない。
「先生、…セイくんは最近学校に来てますか？」
「福嶋さん、それは彼のプライバシーだから…」
「最近、奥のベッドのカーテンが開いてるだけで何か悲しくて。保健室＝セイくんだったから。あはっ…、セイくんの顔すら知らないのに変ですよね」
「えっ…。福嶋さんは…、セイの顔すら知らない…？」
紗南は無言でコクンと頷き哀愁漂う瞳に涙を滲ませた。
一方の養護教諭は、二人が友人関係にあると思っていたので、予想外の展開に困惑の表情を伺わせた。
「…仕方ないわね。本当は内緒だけど、今日は特別に教えてあげる。セイはいま海外に行ってるよ」
「海外…、ですか」
セイくんは保健室にいないどころか。
日本にいない。
紗南は愕然とするあまり、自然に下りた瞼と同時に語尾が絞られていった。
つい先日まで身近にいた彼の存在が、今は急に手が届かないくらい遠く感じている。
