12月中旬のある日。
教室付近の廊下で、視聴覚室に忘れ物をしたという菜乃花に付き添い、先ほどまで授業を行っていた視聴覚室に戻った。
机の上に置き忘れていた筆箱を手に取り、二人は誰もいない視聴覚室を後にする。
次の授業の開始時刻まで残り三分。
ここから時間とのにらめっこが始まった。
…すると。
次の授業が始まる直前だったせいか、滅多にお目にかかれない西校舎の芸能科の生徒達と遭遇。
これから視聴覚室に向かうところを廊下で運良くすれ違う事になった。
「ハルくーん、ハルくーん、ハル…モゴモゴ…」
「黙ってよ。ハルくんがいるかどうかもわからないのに大声出したら恥ずかしいでしょ」
急に大きな声を出して芸能科の生徒に大きく手を振るから、焦って菜乃花の口元を塞いだ。
煌めく芸能科の生徒に気を取られたミーハーな菜乃花の興奮度はMAX。
まるで暴れ馬状態。
すれ違う生徒達をなぞるように目で追い、この中にいるかどうか分からないハルくんの姿を必死に探している。
しかし、次の授業の開始時刻まで残り二分を切った為、ハルくん一色に染まっていた菜乃花の腕を強引に引っ張った。
「芸能科の生徒を眺めてないで早く行こ」
「あとちょっとだけ待って。一世一代かもしれないこの大チャンスを逃したくないわ」
「何言ってるの。もう、ダメだって。次の授業に間に合わなくなっちゃう」
教室までは結構距離がある。
筆箱を取りに行っただけでもギリギリの時間なのに、こんなところで足止めを食らってる場合ではない。
手元の腕時計と菜乃花の顔を目で往復して普通科の校舎の方へ菜乃花を引っ張り歩いていると、前方から男子の集団がやって来た。
「セイ、延期になったジャケ撮り日決まったの?」
「んー。来年初旬になった」
たったいますれ違ったばかりの集団の中から、セイくんの名を呼ぶ声と、聞き慣れている声の会話が耳に届いた。
その瞬間、トクンと胸の鼓動を打った。