「失礼しまーす。先生、今日も貧血気味で…」



保健室に到着して中に入ると、今日もいつもと同じく部屋の左奥側のベッドのカーテンが閉まっていた。


私の到着にまたかと言った先生の曇ったような表情が、保健室の常連生徒と位置づけている。


先生から受け取った記録表には、前回同様今日も星マークが書かれていた。
記録表には、いつしか彼の★マークと私の名前が連なり始めた。





先生が席を外した隙をみて、すかさずカーテン越しの彼に話しかけた。



「ねぇ、セイくん。起きてる?」



光が差し風で靡くカーテン側に、私が来た事を知らせるように声をかけても、彼からの返事は届かない。


静か…。
セイくん、具合悪くて寝てるのかな。
今日はセイくんの声が聞きたかったのに。



紗南は少し残念に思いながらも、無意識のうちにいつもの思い出の歌を口ずさんでいた。




「絡み合った指先と〜♪ 二人見つめ合った笑顔と〜♪ 思い出は色褪せる事なく 今も胸に刻まれてる〜♪」



無意識とはいえ、寝てる彼を気遣いカーテンから漏れないくらい小さな声で歌う。
紗南は一人きりの時間は勿論のこと、自然と口から零れてしまうほどこの歌を歌う事がクセになっている。



ところが…。
ワンフレーズを歌い終わりそうだった、次の瞬間。



「……その歌。俺、知ってる」



カーテン越しから衝撃的なひと言が届いた。
今さっきまで彼の寝息すら聞こえて来なかったのに。



「えっ…」

「それ、《For you》って曲だろ」



セイはそう言ってゆっくりベッドから身体を起こす。


カーテンは風でふわりと揺れ靡かせ、床に揃えられている紗南の上履きが見え隠れしているのが、ベッドに腰を立てたセイの視界に飛び込んだ。



先日、紗南の存在が明らかとなったばかりのセイ。
六年ぶりの懐かしい曲に感極まり、唇を深く噛み締め目元を細く緩ませた。