私はあの頃の記憶が鮮明に思い浮かぶと、まるでひとり言のように延々と語っていた。
飴に込めた想い。
まさか大切な思い出話を他人に語ると思わなかった。
すると、黙って話を聞き終えた彼は数分ぶりに口を開いた。
「あんたは、そいつのどんなところが好きだったの?」
「やっぱり透き通った歌声かな。半分憧れで半分恋。彼の歌が魅力的だから、彼の歌の順番になると異様に胸がドキドキしちゃったりして」
「ふーん、魅力的な歌声…か」
「大雪が降ったら彼に会えるかな、なーんて未だに期待しちゃったりして。再会した時にこの飴を見せれば、少しは記憶の頼りになるかなってね」
「でも、そいつはどうしてあんただけにその飴をくれたんだろうな」
「わかんない。他の子と比べると、私の歌唱力が圧倒的に劣っていたからかな」
セイくんが言う通り、彼が私にだけ飴を渡す理由を今まで考えた事がなかった。
いつも星型の飴を持ち歩いていた事も、いま考えてみると謎に思う。
「また、そいつに会えるといいな」
「でも、あれからもう六年経ったし、皆川くんはもうその約束を忘れちゃってるかもね」
「…いや、しっかり覚えてるかもよ」
「えっ…」
驚いた声でカーテン越しの彼の方に目を向けて返事をした、その時。
ガラッ…
「セイ。もう時間だよ」
保健室の扉が開き、暫く席を外していた養護教諭は扉方向から彼の名を呼んだ。
「…ごめん。時間が来たから、もう戻らないと」
「ん。バイバイ、セイくん」
ベッドから立ち上がる音とカーテンの開く音が聞こえた後、二つの靴音は徐々に扉方向へと遠退いて行った。