「絡み合った指先と〜♪」
不意に口ずさんだメロディーが、燦々と陽射しが降り注ぐ教室の窓辺から外へと流れ行く風の波に乗っていく。
ーーここは。
とある私立高校の普通科の二年二組の教室。
不揃いに踏みつけられる落ち葉が合唱のフィナーレを迎えようとしていた、11月上旬のある日。
昼休みに窓辺でボンヤリと昼空の景色を瞳に映し出していた私が、頬杖をついて思い出の曲を口ずさんでいると…。
同じく隣で空を見つめていた親友の菜乃花が、グイグイと私の腕を肘で突いた。
「またその曲?世間に出回っていないマイナーな曲じゃん」
「つい口ずさむのがクセになっちゃっていて。小学生の頃に通っていた声楽教室の先生が作詞作曲した曲だから、記憶を頼りに歌ってないと忘れちゃう気がして」
…と、少し呆れ気味の菜乃花にいつもと同じ言い訳をする。
この曲は私にとって最も特別な曲だから、初めて聴いた人にはピンとこない。
菜乃花もそのうちの一人だった。
耳障りがよく滑らかに奏でるメロディのこの曲は、心に染み入るくらい名曲なのに。
隣で何度も聴いてる菜乃花には、残念ながら興味がないようだ。