「(陽菜があんな風に歌うなんて)」美玲は焦りを感じていた。陽菜がついに、美玲の耳からしても素晴らしいと思える演奏をしてしまった。美玲は陽菜が、自分にはとうてい及ばないという自負があったし、だからこそ陽菜に色々アドバイスをしていた。美玲は打ちのめされていた。

すると冬真が追いかけてきた。
「美玲先輩……」冬真は言う。

「あはは。恥ずかしいところみられちゃった」美玲は涙をぬぐった。陽菜の歌に感動して涙したようには、冬真には見えなかった。

「どうされたんですか?」冬真は言った。

「どうもしない!えへへ」美玲は答えた。

「陽菜の歌に悔しかったんですか?それとも別の事情ですか?」冬真は畳みかける。