「お前ら汗臭いんだから、まずは風呂場で足洗えよ」
「悟もな」
「俺は自分ちだからいいんだよ。ほら、さっさと風呂場!直行!」
そうやって玄関で騒がしくしていると、2階から
「こんにちは」と控えめな挨拶と共に現れたのが当時、中学3年生の奈子だった。
「あ、奈子ちゃんお邪魔しまーす!」
「お邪魔します。奈子ちゃん久しぶり、元気だった?」
悟の同中だった奴らがそう言いながら家へとあがる。
他の奴らも次々と「お邪魔します」と声をかける中、俺は玄関で立ち尽くしたまま動くことができなかった。
それは、悟から聞いていた奈子との初対面に対する喜び……。
というよりも、ただ単に視線を奪われていたんだと思う。
階段から顔を覗かせた奈子の笑顔があまりにも可愛らしくて。
それで、俺はとんでもないことを口走った。
初対面の奈子に対して、
「ずっと会いたかったんだ」と、まるで何かの台詞のように。
口から出た言葉は嘘じゃない。
ずっと、思っていたことだ。
悟が話す奈子という人物に興味があった。
だけど、もっと他に言い方があっただろう。
そんな自己嫌悪に苛まれていると、奈子は「初めて言われました。そんなこと」と言い、どうしようもない発言をした俺に笑顔を見せてくれた。