俺はキッチンの棚に一度目をやり、シンクの横に置いてあったコップと数種類の飲み物を手に取った。


まぁ、時間はまだあるし焦るのもあんまり良くないか。


テーブルには、奈子の麦茶と俺のオレンジジュース。

それから、紙袋に入ったたい焼き。

狭い部屋で奈子と身体を寄せ合いながら過ごす。

レシピ本にはいくつもの付箋が貼られていて、どれも俺が好きな食べ物ばかりだった。

本当は奈子の作ったものが食べたいけど、せっかく本を持って来てくれたんだ。練習してみるか。

それで、今度は俺が奈子に手料理を振る舞おう。

…………夏頃には。


レシピ本をしまうと、奈子はテレビ台の下に置いてあった大学のパンフレットに目をやる。

「卒業してから本当にあっという間で、数日後には入学式なんて信じられませんね」

「だな。奈子ってもうスーツ用意したんだっけ?」

「はい。先週」

「入学式の日、写真送ってよ。奈子のスーツ姿みたい」

「じゃあ、巧くんも送ってくださいね?」

「わかった」

本当は隣でその姿を見たかったな。

電車で1時間といっても、今までの距離を考えるとものすごく遠くに感じる。