「俺はしたかったし、するつもりだった。でも……直前でビビったんだ。奈子は同じ気持ちじゃないかもって」
巧くんはそう言うと、私の手の上に自分の手の平を重ねた。
さっきから、巧くんは自分の気持ちを伝えてくれてるのに、私は何も言えてない。
いつも察してもらうばかりだ。
「私も……。して欲しかったです。付き合ってからずっと」
「ずっと?うわ、悩んでた時間がもったいなかったな」
なんて、巧くんが笑うから私も思わず笑ってしまった。
言葉にしなきゃ、伝わらない。
そのことは私達が一番よくわかっていたはずなのに。
「面倒くさい女だって思いましたか?」
「どこが?めちゃくちゃ可愛いなと思ったけど。だって、俺とキスしたくて拗ねてたんでしょ」
「別に拗ねてなんか……。ちょっと、ほんのちょっとだけです」
親指と人差し指の隙間を1cm程にし、この位ですよと巧くんに伝える。
「じゃあ、機嫌直してもらわないとな」
巧くんの優しく触れる手が、熱を帯びた瞳が、まるで今からキスをするという合図のようで、そっと瞼を閉じる。