「……あの、巧くん?」


「俺もうお兄ちゃんの友達じゃなくて、奈子の彼氏だよ?」


巧くんはなぜか今更、そんなわかりきったことを口にする。

「わかってますよ」


私がそう言うと巧くんは私に覆いかぶさるように、ベッドへと手をついた。

2人分の体重でマットレスが深く沈む。

私達は自然と向き合うような形になり、巧くんの目はまっすぐ私の瞳を捕らえた。


「彼女の部屋で2人きりなんて何するかわかんないだろ」

私を押し倒したまま、恥ずかし気もなくそんな言葉を口にする巧くん。

頑なに部屋に入ろうとしなかった理由がようやくわかり、理解した瞬間、心拍数は急激に上がり顔が熱くなるのを感じた。

「今更、意識したんだ?」

真上から降ってくる言葉に思わず顔をそむける。

“意識”なら私だってしてた。

でも、今日はお兄ちゃんがいて……。

部屋だって特別な意識するような場所ではなかった。



「巧くんは……そういうこと考えてないと思ってました」



デートの時だって、手を繋いだだけ。

卒業式の時にされたキスは頬に。

それ以上を求めてくる様子もなくて、こういうことはまだまだ先だと思っていた。