そもそもキスだってまだだし。
それも今日はなさそう。
「この前、真帆と買いに行ったんです」
「へー。触ってい?」
「えっ……」
私が返事をする前に巧くんは手を伸ばした。
私が着ていたモコモコの生地に。
肩の部分を触り「羊みてぇ」なんて言葉にする。
羊……。
一瞬でもドキドキした自分がバカだった。
何も起こらないと思いながらも、心のどこかでは巧くんとの甘い時間を期待していたのだろうか。
やめた、やめた。
今日はそういうのじゃない。
「それより次は巧くんの番ですよ、お風呂!」
「ああ、そうだった」
巧くんはそう言うと、着替え片手にお風呂場へと消えていく。
そんな私達のやり取りを見て、「仲良くなったのはいいけど、お前ら本当に付き合ってんの?」とお兄ちゃんが口にした。
「つ、付き合ってるよ」
テレビを観るお兄ちゃんの前に左手を差し出す。
その薬指にはこの前買ったペアリングがキラリと光る。
「それはもう見飽きたっつーの」
そう?私は何度見ても飽きないけど。
「お前らの会話には色気がねぇんだよ」
「色気って……。あったら、あったで文句言うんでしょ?」