部活の引退コンサートがあとひと月と迫るなか、私たちオケ部は新入生の入学式に出席させられた。コンサートの曲を練習したいのに、とコンミスが口にしていたが学校からのお呼ばれであれば出ないわけにはいかない。
自席に座り、退屈に演奏の時間を待っていると、先生が教員席へ向かってこちらへ歩いてくる。久しぶりに見た先生は、式典だからいつもはしないクリーム色地の黒い線が入ったネクタイを結び、髪も綺麗にセットされていた。
ネクタイをしているのがかなりかっこいい。

先生は、こちらへ向かって歩いてくるけれど、やっぱり目は合わない。目くらい、合わせてくれてもいいじゃん。と不満が募るが、式中、私は先生のことばっかりみていたら、何度も目を合わせてしまった。完全に私の視線にバレている。もう授業が受けられない分、凝視してやろうと思った。愛してやまないだいすきな人をじっと観察をしてみる。先生も式に飽きたようで、手いじりをしていた。子供みたいで、かわいい。30歳の男性相手に対して、母性が溢れ出る。新学期が始まったから、実は去年結婚しました、とかもしかしたらあるかもしれないと思い先生の手を見てみたが、指輪はしていないと分かると安堵した。
結婚なんてしてたらたまったもんじゃない。もちろん好きな人が幸せならば私も幸せだけれど、私はまだまだ子供で、自分じゃない女の人と幸せそうにしているのは堪え難いと思ってしまう。

少し目線を逸らして先生を見てみると先生がこちらを見ていて、目が合った。
式中は目なんて合わせないでよ。どうして私のことみたの?期待しちゃうじゃん。

恥ずかしさが勝り、瞬時に目を逸らしてしまったが、さっきとは逆の感情が湧いて、なんてわがままな女なのだろうと思う。

起立。礼、と声がかかると、手を両脚に添えて、綺麗にお辞儀を施しているのがリア恋ポイントだ。

私、あの手に触れたことがある。

それは親指の先と、他4本の指の爪同士の少しの面積だったけれど、おっきくてあったかくて、やさしい手。あの手にもう一度触れたい。2週間前の出来事を脳裏に浮かべ、数メートル先にいる先生を想う。

卒業式は退屈していたが、先生のおかげで入学式はあっという間に閉式した。どうしても先生の視界に入りたくて、片付けの作業中先生の前を歩くことを試みたけれど、先生は茶髪の可愛らしい若い女の先生と楽しそうに会話をしている。

いいね、先生とお話しできて。年齢が近いって、羨ましい。羨んでも仕方ないとは分かっているが、考えてしまう。

目の前にいる2人の年齢差は3歳。では私と先生の差はといえば13歳。私が母親から生まれた時、先生は中学生だ。普通に考えて、13個も年下の人を恋愛対象として見られないだろう。私が今13歳年下の4歳の男の子を好きになれと言われても難しいと頭を捻る自信がある。きっと好きという感情は、母親が子供に向ける好き、妹や弟に向ける好きに限りなく近いだろう。私の求める『好き』とは違う。
どうしたら、先生の瞳に私を映すことがだきるだろうか。先生の頭の中を私でいっぱいにしてやりたい。