2年生も残り6日となった土曜日、teamsのチャットに山野先生からメッセージがあった。
『水野さん
こんにちは。山野です。今度、学校に登校したときに、PC準備室によってください。よろしくお願いします。』

好きな人からの連絡に驚き、LINE通話で玲奈に見せると、バレンタインのお返しだよきっと。よかったじゃん!、と返事がきた。
本当にそうだといいが勘違いはしたくない。
期待しないように、先生に承知した旨を伝えた。


放課後、私は玲奈とPC準備室へ向かう。先生の気を少しでも惹きたくて、いつもはストレートにおろしている髪の毛を、ポニーテールにして巻いてみた。シェーディングもいれていつもは描かない涙袋も二重の延長線も描いて、2人で部屋の前でウロウロしていると、廊下から小走りに先生が来て、「ちょうどいいところに、ちょっと待っててね」と優しく声をかけてくれた。
私の元へ戻ってくると、両手を添えて、綺麗なくすみかがかった緑色の紙袋を渡してくる。深々とお辞儀をしながら受け取り精一杯の感謝を伝える。
先生にまた写真撮ってくださいとお願いすると「この前も撮らなかった?」と少し面倒くさそうにされたが、一応撮ってくれた。ポーズをお願いしたから私とハートを作って。
多分愛理も悠乃も触れたことのない先生に触れた私の身体は熱を孕んだ。私よりも遥かに大きい先生の手と私の手では綺麗なハートは作れなくて、歪んだ形が出来上がっているのを写真を見て確認した。それはまるで、私の恋心を映し出されたようだった。一方通行の、苦しい恋心。
しばらく歩いてからもらった紙袋を覗くと、高そうなリンツのチョコレートが入っていて、心が躍り上がった。しかも私が好きなアルコールが入ったチョコレート。大事に取っておこうと思い帰宅すると先生の色紙の隣に飾った。もったいなくて、食べられない。
飾ったはいいものの、先生は一体何人からもらって、誰に何をお返ししたのだろうとせっかくお返しをもらったのに黒ずんだ気持ちがよぎる。私って、こんなに嫉妬深かったっけ。純粋な心だけで、恋愛はできないのだと今更ながらに感じる。苦しい。先生を想うのをやめたいのに、やめられない。夜な夜な1人で葛藤し、悶々とする。