バレンタインの日を境に授業はクラスの教室で行われることになった。教室に新しくプロジェクターというか、電子黒板が設置されたからだ。

本当は今年度はまだ使ってはいけないらしいのに、先生はこっそり使いたいようで、『ぜっっったいに口外してはいけませんよ。私の世界史の授業は2クラスしかもっていないので犯人なんてすぐ見つかりますからね。』と強く釘を刺された。


バレたら上の先生に怒られるリスクがあるのに、だめなことサラッとやっちゃうちょっと子供っぽいところも好きだ。


授業の場所が教室になってしまったため、当然席も変わる。今までは玲奈と3人でつるんでいた萌音の隣だったが、悠乃の隣になった。しかも窓側の1番後ろ。いわゆる青春の席ってやつだ。


それにしても今日はやたらと先生と授業中目が合うなあと感じる。気のせい?私の自意識過剰?両者とも正しいと思うが、やっぱりいつもより多い気がする。


極め付けはヒトラーユーゲントについて話すときに、『ヒトラーユーゲントっていうのはいわゆるヒトラークラブです。みなさんは、何部に入っていますか?オーケストラ部?合唱部?そんなもんやめちゃいなさい。今すぐヒトラークラブに入りなさいっていうのがヒトラーユーゲントです』と説明するとき、オーケストラ部?のタイミングでバッチリ私と数秒目を合わせて言ってきたことだ。



私はオケ部だし、私のことガッツリ見て言ってきたし、少しは私のこと、意識してくれてるのかな?それともやっぱ気のせいなのだろうか。でもやっぱり、自意識過剰になってしまう。ここは都合よく解釈し、ファンサの一環として受け取っておこう。ファンサは勘違いしたもん勝ちだし、たとえ勘違いでもいいかな。




先生に近づきたい。先生を、もっと知りたい。悪いところも全部、受け止めたい。
好きという気持ちがどんどん私の心を占領していく。先生のことで、頭の中がいっぱいになる。先生と女子高校生なんて、簡単に結ばれるわけないのに。



胸ポケットに入れた油性のマッキーペンを触る。あの日、色紙に書いてもらったときに先生が触ったマッキーペン。
私の中でお守りみたいになっている。自分でもかなり変態だと思うけど、好きな人が触ったペンは常に近くに置いておきたい。




ストーブに暖まりに行くフリをして、教室の前に玲奈とたむろする。教卓との距離は2mもない。先生の授業が始まる前と授業後には毎回ここで先生をこっそり眺めている。

その度に、カメラロールに先生の動画が溜まる。勝手に動画撮るのは最低だけどね。でも毎回撮って、見返して、気づいたのは私と玲奈がストーブに暖を取りに行くと、先生の顔がにやけていること。先生目当てでストーブに行ってるのがバレバレだということだ。
バレンタインに渡した手紙にだいすきですと書いたし、私の好意は知っているから、隠す気はないけれど、私たちが来てること、少しは意識してくれてるのかもしれない。

先生、彼女いるのかな。いてもおかしくないよね。あんなイケメンで女が寄ってこないわけないというか。

でも、小学生のときから友達の1つ歳下の莉華に先生のことを話したら、30歳で実家暮らしはやばいよ。子供部屋おじさんじゃん!と言われてしまった。

たしかに、30越えて独身実家暮らしかあ。どうして結婚しないのだろう。先生くらいのスペックなら、結婚しようと思えばすぐできるだろうに。何故、どうして、と疑問ばかり増幅していく。
なにか人間性に欠陥があるのだとしたら、どこだろう。それともまだ女遊びをしたいのだろうか。それとも莉華が言ってた通り、マザコンなのだろうか。