始業式から数日後、林間学校の役割決めが始まった。
人をまとめるのが好きな渚は生活係となり、自動的に班長となった。
班長だけ決まった日からまた二日後に、担任が班を発表した。
渚と遥斗と同じ班で、約束した通り夏希もいる。
一二年生で集まって話し合いをする時に、班ごとの行動だった為一緒に話し合うことが出来た。
このようなことをすることは全て承知していたが、いざとなるとやはりにやけてしまう。
夏希は、たまに席を外して他の班の友達に話しかけたりしていた。
凛には興味が無いことはわかっている。
名前で呼ぶようになったからと言って、ただ仲がいい部類に入っただけだ。
好きと言われたわけでもなければ友達と言われた訳でもない。
もしかしたら、凛が思っている以上に遠い存在で、ただの先輩と後輩なのかもしれない…。
そう思うと胸が締め付けられてしまった。
「…んぱい……先輩………凛先輩!」
「はっ!あ、ご、ごめん、なんだっけ?」
まだ話し合いの途中だった。
一人で苦しんでいる場合ではない。
「食事の係が二人必要らしいんですが、大変なので他のみんながやりたくないようで…凛先輩はどうしますか?」
「夏希はやるの?」
「え?あ、はい。俺はなんでもやるので」
ふと、渚の『もっとグイグイ行きなさいよ!』と言う言葉が頭の中でグルグルと駆け巡る。
行くなら今だ。
「な、夏希がやるなら凛もやる。」
握った手に力を入れて言うと、夏希がぽかんとした顔をする。
さっきまで遥斗と話していたはずの渚は、凛の言葉に振り向きニヤリと不敵な笑みを見せる。
夏希の方に視線を戻すと、口に手を当ててそっぽを向いている。
少し顔が赤いのは気の所為だろうか。
「だめ…かな」
いきすぎたことをしてしまったかもしれない。
これで嫌われたとなれば渚のせいだ。
座っても凛より背が高い夏希を見上げて尋ねる。
夏希は目を逸らしたまま、「…いい…です」と答えた。
ほっと胸を撫で下ろして安心すると、渚が影で親指を立てた。
♥
林間学校から二週間前の休日に渚と買い物へ行った。
他のクラスの子や、一年生が帽子を買っている姿も見た。
夏希もいるかと考えたが、残念ながらいなかった。
遥斗も来ていなかったのでそこは少し安心。
必要なものを全て買い揃えて、お揃いの服も買った。
コテージが一緒だから写真やら撮って楽しめそうだ。
夢が色々と膨らんでも、その中心には夏希しかいなかった。
どこにいても、何をしてても頭から離れない。
たまに夏希が同じクラスの女子と話している時を見かける。
何となく、凛といる時よりも静かだとは思うが、どうしても見るのは辛かった。
同じクラスの女子よりも仲良く話せるのに、同じクラスの女子よりも遠い存在。
そんな関係が苦しかった。
同じクラスになれば、あの子達のように出来ていたのだろうか。
普通に話しかけて、一緒に帰って、放課後にどこかへ寄って…
でも、先輩じゃなかったらこんなにくすぐったい思いはできなかったかもしれない。
どうすればいいの?
片想いは、楽しくて、幸せで、辛い──。
両想いにはなれっこない。
そんなことはわかっていた。
出かけただけで、補習を一緒に受けただけ。
ぶつかりそうになっただけで、祭りで会っただけ。
それがたまたま、同じ高校の先輩後輩だっただけなんだ。
運命なのか、偶然なのか、奇跡なのか。
凛にはこれっぽっちもわからなかった。
ただ、夏希が他の子といることを考えると涙が出てきてしまう。
なんで、恋をすることはこんなにも残酷なのだろう。
ふと恋をしなければこんな思いはしない。
そう思ってしまった。
そう思ってしまうほど、ネガティブになる自分が憎かった。
どうすれば、幸せになれるのだろう。
きっと答えはすぐ近くにあったのかもしれない。